皆さんは海岸に潜むポンポンのようなきれいな生き物を見たことがありますか?
今回は「ケヤリムシ」をご紹介します。
ケヤリムシは岩にくっついて生きています。
名前には「虫」と付きますが「昆虫」ではありません。
釣りの餌として有名なゴカイやイソメの仲間です。
ケヤリムシきれいなピンク色のポンポンをもっています。
ポンポンはとてもきれいなので、ちょっと触ってみたくなります。
そうしてポンポンに指を伸ばすと、あっという間にさやのような住みかに収納してしまいます。
ケヤリムシは、しばらくして危険がないことを知るとまたゆっくりとポンポンを伸ばし始めます。
暗い岩の陰でケヤリムシを見つけると、そこだけちょっと南国みたいに華やかに感じられて、見つけるととっても楽しい気分になります。
あなたも海岸でケヤリムシを見つけてみませんか?
ケヤリムシ
動物界
環形動物門
多毛綱
ケヤリムシ目
ケヤリムシの特徴
- 見た目
羽根のような美しい触手をたくさん持っているのが特徴です。
この触手は、呼吸をしたり、プランクトンなどの小さな生き物を捕らえたりするのに使われます。 - 生活
岩や貝殻などに固着して生活しており、自分で作った筒の中に体を隠しています。
この筒はケヤリムシ自身が作ったもので、泥や砂を固めて作られており、ケヤリムシの体を守っています。 - 種類
ケヤリムシの仲間は日本には105種、世界には700種確認されています。特に本州中部から南に数が多いです。
日本動物大百科 平凡社 - 生態系
海の生態系の中で、ケヤリムシは他の生物の餌になったり、住み家を提供したりするなど、重要な役割を果たしています。
ケヤリムシは本州の中部より南側の海岸に生息しています。
体長は10~15センチほどで、岩に「棲管」と呼ばれるホースのようなものの中に住んでいます。
静かで危険のないときには、棲管から長さ10センチくらいの白い軸が、60本くらい出て丸く広がっています。
ケヤリムシの持っているたくさんの触手は、細長く輪になっておかれています。海水はその間を通ると流れがゆっくりになり、流れが乱れて軸のまわりを循環するようになります。
ケヤリムシは、こうした自然な海水の流れを利用して食べ物や呼吸をしています。
ケヤリムシの住みか
ケヤリムシは自分の隠れる場所、住みかを自分で作ることができます。
ケヤリムシは水の流れに乗ってキャッチした砂粒を、棲管の材料にします。
ケヤリムシは砂粒をつかまえたら、口の下にある袋に蓄えて、粘液と一緒にこねて細いひもにして、棲管のふちに貼りつけ自分の住みかの増築として使います。
もしケヤリムシが身の危険を感じると、瞬時に鰓冠を引っ込めて棲管の中に隠れます。この素早い動きで捕食者から身を守ります。
ケヤリムシの面白いところ
- 羽根のような触手
ヤリムシの触手は、まるで花が咲いているように美しく、見ていて楽しいです。 - 筒の中での生活
ケヤリムシは、自分で作った筒の中で一生を過ごすという、少し変わった生活を送っています。 - 多様な種類
世界中で様々な種類のケヤリムシが生息しており、それぞれの種類がカラフルな色をもったり特徴的な姿をしています。
ちなみに、名前についている「ケヤリ」とは「毛槍」のことです。
「毛槍」とは、大名行列の時に使われる長い棒の先に白や赤い毛をつけた槍のことを指します。
くるくる回すと上についた毛がぱあっと広がります。各地で行われる大名行列では「毛槍」を上下上下に振るだけでなく、投げてそれを受ける、受け渡しする演技が行われることもあり、大名行列の花形になっています。
ケヤリムシとゴカイの違い
ケヤリムシ(Sabellastarte japonica)と他の多毛類(Polychaeta)にはいくつかの違いがあります。
どんな違いがあるのでしょうか?
外見と構造
- ケヤリムシ
鰓冠(さいかん)と呼ばれる羽毛状の触手を持ち、これを広げてプランクトンを濾過摂食します。鰓冠は非常に目立ち、観賞用としても人気です。 - 他の多毛類
多毛類には様々な形態があり、例えばゴカイやイソメのようにミミズに似た形状のものもいます。多くの多毛類は運動能力が高く、海底を這い回ることが多いです。
生息環境
- ケヤリムシ
主に岩礁域や潮間帯に生息し、棲管(すいかん)と呼ばれる泥や砂で作った管の中に住んでいます。 - 他の多毛類
多毛類は非常に多様な環境に適応しており、海底、砂浜、泥底など様々な場所に生息しています。
生活様式
- ケヤリムシ
固着性であり、棲管の中に定住して生活します。驚かされると鰓冠を引っ込めて棲管に隠れます。 - 他の多毛類
多くの多毛類は移動性が高く、捕食者から逃げたり、餌を探して移動することが一般的です。
防御機構
- ケヤリムシ
鰓冠を引っ込めることで捕食者から身を守ります。 - 他の多毛類
多毛類には様々な防御機構があり、例えば硬い外骨格を持つものや、毒を持つものもいます。
ケヤリムシはその独特な外見と生活様式から、他の多毛類とはちょっと違う特徴をもっています。
ケヤリムシの最新の研究
最近の研究では、ケヤリムシの目の多様性とその進化について注目されています。
ケヤリムシは、単眼から複眼まで様々なタイプの目を持っており、これがどのように進化してきたのかが研究されています。特に、スウェーデンのルンド大学の研究者が、ケヤリムシを「自然界の目の工場」と表現し、その多様な目の進化を解明しようとしています。
また、ケヤリムシの目と脳の連絡についても研究が進められており、これにより最も原始的な目の進化過程についての手がかりが得られる可能性があります。
単眼も複眼ももつ“目の工場”ケヤリムシの謎 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
他にも、ケヤリムシの新種がオーストラリアのサンゴ礁で発見されるなど、海洋生物の多様性に関する研究も行われています。
不思議な海洋生物 ナショナル ジオグラフィック
ケヤリムシの目の種類と機能
ケヤリムシの目は非常に興味深い進化を遂げており、単眼から複眼まで多様な形態を持っています。
「自然界の目の工場」とまで言われたのはなぜなのでしょうか?
ケヤリムシの多くは、頭部や鰓冠(さいかん)に単眼を持っています。単眼は基本的な光検出器であり、光や影の方向を感知することができます。これにより、ケヤリムシは周囲の明るさを測ったり、体内時計を調節したりします。
けれど、一部のケヤリムシは、より複雑な複眼を持っています。
複眼は多くの個眼から構成され、高解像度で周囲を把握することができます。これにより、ケヤリムシは捕食者の接近をより正確に感知することができます。
つまり、ケヤリムシは単眼と複眼の2種類を持っているので、この2つの進化の過程を見つけるカギを持っている可能性があるということなのです。
目の配置
そこでケヤリムシの目のある場所を調べると「頭」と「鰓冠」の2か所であることが分かりました。
- 頭部
頭部には基本的な単眼があり、これは周囲の明るさを感知するために使われます。 - 鰓冠
鰓冠にも単眼があり、これらは危険が近づいているかどうかを感知するために使われます。鰓冠の単眼は、影の動きを感知して、触手を素早く引っ込めるべきかどうかを判断します。
進化と多様性
ケヤリムシの目は、種によって非常に多様です。
例えば、Megalomma属のケヤリムシは、触手の先端に小さな複眼を持つ種もいれば、大きな複眼を2つだけ持つ種もいます。この多様性は、それぞれの生息環境に適応した結果と考えられています。
研究の進展
スウェーデンのルンド大学の研究者たちは、ケヤリムシの目と脳の連絡についても研究を進めています。
ケヤリムシの目は一般的な視覚中枢にはつながっていないと考えられており、新しい神経回路が進化した可能性があります。
この研究により、最も原始的な目の進化過程についての手がかりが得られるかもしれません。
単眼も複眼ももつ“目の工場”ケヤリムシの謎 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
複雑なことは分からなくても、海で生きるケヤリムシはとてもきれいです。
海でみかけたらぜひ、そっと近づいて観察してみてください。
美しく開く鰓の不思議な動きに、きっとあなたも魅了されると思います。
参考文献
無脊椎動物学 朝倉書店
磯の行きも図鑑 トンボ社
日本動物大百科 平凡社
ケヤリムシ - Wikipedia