今回は「国と国はお金をやり取りしている」ということについて注目していきましょう。
国と国がお金をやり取りしてることは全く知らなかった方、知らなくても日常生活に何の影響もないので、関心が持てない方もいらっしゃるかもしれません。
けれど、国同士のお金のやり取りは、その国の経済状況が分かるだけではなく、為替レートを予測して投資に役立てたり、国際社会でのその国の立ち位置知るなど、国際競争力をイメージするために大切です。
それなりの経済規模をもった国では、毎月自分の国がどのようなお金のやり取りしているのか、膨大な資料をまとめて公表しています。日本だと財務省が公表していますが、彼らの仕事をちょっと覗いてみましょう。きっと私たちの役に立つ情報をもっているはずです。
国際収支とは?
国際収支とは「ある国が他の国とのお金のやり取りしたものの差額」のことです。
日本などの国が、一定期間(通常は1年間)に、他の国と行った財・サービス・資産取引の収支をまとめたもの、つまり「お金の出し入れの差額」を表す指標とも言えます。
国際収支は、一つ一つの取引額には注目せずに、その「差額」だけに注目するところに大きな特徴があります。国際収支は一つ一つの取引の具体的な金額、内容は把握しません。全体をまるっと一つにしてしまって経済を評価するための指標です。
国際収支はその内容によって「経常収支」「金融収支」「資本移転等収支」の3つに分けて考えられています。
経常収支
経常収支を詳しく見ていきましょう。経常収支にはいろいろな「収支」が入っています。
- 貿易収支
輸入、輸出の差額を計算したもの - サービス収支
日本人が海外で使ったお金、また外国の人が来たときに使ったお金の差額 - 第1次所得収支
海外からの配当や利子などの受取と支払いの差、海外からの労働者への賃金支払い - 第2次所得収支
無償の政府間援助の受け取りと支払いの差
経常収支は赤字なのか黒字なのかが注目されます。
経常収支が黒字なら、その国は外国へモノやサービスを売って「お金を稼いだ」ことになります。逆に赤字なら、海外から買っている方が多く「お金を支払っている」ということになります。
ちなみに、ある程度大きな国になると単純な製品は他の国から買って、自国ではもっと付加価値の高いものを作るので、先進国では一般的に経常収支は赤字になります。
金融収支
金融収支は、その国の海外への投資状況や資金調達状況を表しています。詳しく見ていきましょう。
- 直接投資収支
海外企業への投資と海外企業からの投資の差 - 証券投資収支
海外資産の購入と売却の差 - その他投資収支
貿易信用の供与や受領などの差、また外貨準備の増減を合計したものの差
金融収支はそれぞれ複雑な要因によって変動するため、金融収支全体の動きを理解するのが難しく、さらに投資家心理や金融市場の動向に大きく影響されるため、短期的には変動が大きくなります。
そのため、長期的な経済状況を判断する指標としては経常収支の方が適していると考えられています。
しかし、金融グローバル化が進展し、国際的な資金移動が活発化しているため、金融収支の変動が経済に与える影響は大きくなっています。
また、多くの国で財政赤字が拡大しており、政府による海外からの資金調達が活発になっています。そのため、金融収支の動向は、国の財政状況にも大きな影響を与えています。
このように、金融収支は、海外への投資状況や資金調達状況を知ったり、経済や金融市場を理解する上で重要な指標です。
財務省 (mof.go.jp)
国際収支関連統計 : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
国際通貨基金 (imf.org)
資本移転等収支
最後の資本移転等収支は、貿易収支や金融収支に比べて注目度が低い指数です。しかし近年は無視できない重要な指標になってきています。
資本移転等収支には次のような項目があります。
- 移民移転収支
移民の送金などの差 - 政府移転収支
政府間の贈与などの差などを合計したものです。
資本移転等収支は、各国の経済状況や政策効果の分析に使われています。
1. 経済構造や国際関係を理解する上で重要な情報
- 対価を伴わない資金の移動を捉えるため、政府開発援助 (ODA) や国際機関への拠出など、国家間の経済協力や政治的な関係性を反映します。
- 移民や難民の移動に伴う送金など、人道支援や国際的な人口移動の影響も示します。
- 企業による海外への投資や債務免除など、国際的な経済活動の変化も反映しています。
2. 為替レートや金融市場に影響を与える可能性
- 資本移転等収支の黒字は、国内への資金流入を意味し、為替レートの円高要因となる可能性があります。
- 一方、赤字の場合は資金流出を意味し、円安要因となる可能性があります。
3. 近年その重要性が高まっている
- 国際的な経済活動や人道支援の規模が拡大する中、資本移転等収支の重要性も高まっています。
- 近年では、国際的な租税回避やマネーロンダリング対策などの観点からも、注目されているのです。
資本移転等収支は、経済構造や国際関係、為替レートや金融市場などを理解する上で重要な指標です。情報収集は難しい面もありますが、近年その重要性が高まっているため注目の指数です。
日本の国際収支の3つの特徴
では、気になる日本の国際収支はどんな特徴もを持っているのか見てみましょう。
- 経常収支は黒字を維持している
- 貿易収支の赤字は拡大している
- 第一次所得収支は黒字が続いている
1. 経常収支黒字
日本は長年、経常収支黒字を維持しています。2022年の経常収支黒字は11.4兆円でした。それには次のような理由が挙げられます。
- サービス収支の黒字
日本は世界トップレベルの観光大国であり、訪日外国人による観光消費が大きく黒字に貢献しています。また、金融・保険業や運輸業などのサービス業も好調です。 - 第一次所得収支の黒字
日本は海外からの投資収益が大きく、海外への投資支払いよりも上回っています。これは、日本の対外純資産が大きいことによるものです。 - 貿易収支の赤字
近年は貿易収支の赤字が拡大していますが、サービス収支と第一次所得収支の黒字によって、経常収支全体では黒字を維持しています。
2. 貿易収支の赤字拡大
日本は近年貿易収支の赤字が拡大しています。2022年の貿易収支赤字は15.7兆億円となりました。これは過去最大の赤字額です。なぜこんなに赤字なのでしょうか?
- エネルギー輸入の増加
日本はエネルギー自給率が低く、石油や天然ガスなどのエネルギーを多く輸入しています。近年はエネルギー価格の高騰により、輸入額がさらに増加しています。 - 製造業の空洞化
日本はかつて輸出の主力であった家電や自動車などの製造業が海外に移転し、輸出額が減少しています。 - 円安
アメリカ経済の金利上昇などを背景に、日本円が大幅に値下がりしました。円安になると、同じ量の輸入品を購入するのにより多くの円が必要となるため、輸入額がさらに増加します。
3. 第一次所得収支の黒字
日本の経常収支黒字を維持しているのは、第一次所得収支の黒字です。第一次所得収支黒字は35兆億円でした。
- 金融・保険業などのサービス業の好調
日本は金融・保険業などのサービス業が世界でも高い競争力を誇っており、海外からの収益が大きいです。 - 対外純資産の大きさ
日本は長年、経常収支黒字を維持してきたため、対外純資産が大きくなっています。その結果、海外からの投資収益が大きくなっています。
日本の国際収支は、今後も経常収支黒字を維持すると予想されます。しかし、貿易収支の赤字拡大は懸念材料です。エネルギー価格の高騰や円安が続くと、貿易赤字がさらに拡大し、経常収支黒字が縮小する可能性もあります。
アメリカの国際収支の3つの特徴
では、次に世界最大の経済立国アメリカの国際収支はどうなっているのでしょうか?
アメリカの国際集の特徴は大きく分けて3つの特徴があります。
- 長期的な経常収支赤字
- 貿易収支の赤字
- 金融収支の黒字
1. 長期的な経常収支赤字
アメリカは1980年代以降、ほぼ一貫して経常収支の赤字が続いています。2022年の経常収支赤字は9,700億ドルです。
なせアメリカの国際収支の経常収支は赤字が続くのでしょうか?
- 輸入超過
アメリカは世界最大の消費国であり、多くの商品やサービスを輸入、買っています。一方、輸出は比較的少なく、輸入超過となっています。 - 海外投資の増加
アメリカ企業は海外への投資が活発です。海外での直接投資や証券投資が増えることで、海外への支払いも増加します。 - ドルの基軸通貨としての役割
ドルは世界で最も多く使われている基軸通貨です。そのため、アメリカは貿易赤字をファイナンスするために、ドルを発行することができます。
2. 貿易収支が赤字な3つの理由
なぜアメリカの貿易収支は赤字なのでしょうか?
- 旺盛な消費
アメリカは世界最大の経済大国であり、国民の生活水準も高いです。そのため、消費財の輸入規模が非常に大きく、これが貿易赤字の主要な要因となっています。 - 製造業の競争力低下
アメリカは先進国であり、賃金や生産コストが上昇しています。そのため、製造業の競争力が低下し、輸出が減少しています。 - ドル高
アメリカは世界の中心的な金融国であり、ドルは国際的な基軸通貨として広く利用されています。そのため、ドルの価値が高くなり、輸入物価が上昇します。
これらの要因が複合的に作用し、アメリカの貿易収支は赤字となっています。
貿易赤字が問題なの?
貿易赤字は必ずしも悪いことではありません。アメリカの場合、貿易赤字を補うために海外からの投資が流入しており、これが経済成長を支えています。
しかし、貿易赤字が過度に拡大すると、経済に悪影響を与える可能性もあります。例えば、ドルの価値が下落し、輸入物価がさらに上昇する可能性があります。
アメリカの貿易収支は、今後も赤字が続くと予想されます。しかし、政府は製造業の競争力強化やエネルギー自給率向上などの政策を推進しており、将来的には貿易収支の改善を目指しています。
ちなみにアメリカの貿易赤字は、中国との貿易赤字が最も大きいです。
3. 金融収支の黒字
アメリカの金融収支の黒字はなぜでしょうか?
- 世界最大の金融市場
アメリカは世界最大の金融市場であり、世界中から投資を集めています。 - 高い金利
アメリカの金利は他の国に比べて高いため、海外投資家にとって魅力的な投資先となっています。 - ドルの安全資産としての役割
ドルは世界で最も安全な資産の一つと考えられており、経済不安や政治不安の際に資金がアメリカに流入する傾向があります。
アメリカの国際収支は、今後も経常収支赤字と金融収支黒字の構造が続くと予想されます。貿易収支の改善は難しい見通しですが、金融収支の黒字はアメリカの経済成長や金利動向によって左右されるでしょう。
まとめ
国際収支について見てきました。
国際収支とは一つの国が他の国とのお金をやり取りするその差のことです。
国際収支は日常生活にあまりなじみがないものですが、各国の経済状態を理解するだけではなく、為替レートの動きや金融の動きを知るために大切な指数です。
国際収支には「経常収支」という貿易に使われた収支、旅行者がやり取りするお金、「金融収支」という海外との投資の利益などをまとめたもの、「資本移転等収支」という項目に分けられています。
「金融収支」や「資本移転等収支」の影響は今は大きくないのですが、近年ネットの普及が進み、お金が世界中を簡単に回るようになっています。そのため国際的な送金の比率が大きくなっているため、今後金融収支や資本移転等収支の影響が大きくなると考えられています。
日本の国際収支の経常収支は第1次所得収支が大きな比率になっています。貿易は国内の産業の伸びが低く赤字が続いています。
アメリカでは国際収支はずっと赤字です。しかしこれはアメリカでは海外の安い商品を買った方が経済効率が良いので、悪いことではありません。また海外への投資も盛んなので赤字体質なのがアメリカです。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
財務省 (mof.go.jp)
一般社団法人日本貿易会(Japan Foreign Trade Council, Inc.) (jftc.or.jp)