ぽれぽれ経済学

イノベーションの起こし方

イノベーションのおこしかた

経済成長するためには、今までになかった新しい技術を使ったサービスや商品をつくらなければいけない、という話は皆さんも最近よく耳にするのではないのでしょうか?

スーパーに行っても「新商品です!」とか「今までになかった洗浄力!」など、その商品の新しさをアピールしているものは多いですよね。新技術を使った商品の大切さは誰もが承知しているように見えます。

それでも、日本ではずいぶん前から技術革新が起きないので成長できていない、と聞くことが多くなりました。新しい商品は毎日販売されているはずですが、それでは十分ではないようです。

なら、いったいどうしたらそんな商品がつくれるようになるのでしょうか? 
簡単に分かったらどこの国でも、どんどん新開発が進んでいるはずなので簡単ではないはずですが、アイデアが浮かびやすい環境はわかっています。ここではそれを解説していきます。

皆さんも日頃の職場と比べてみてください。なにか気が付くことが見つかって、他の人より一歩前に進めるかもしれません。

新しいアイデアはそれに見合った利益が必要

新しい商品のアイデアが浮かぶために必要なことはただ一つ「利益」です。

世の中にはすでにあらゆるアイデアを使った商品であふれています。この中でさらに新しい技術革新を起こすには、毎日試行錯誤を繰り返さなければいけません。その試行錯誤の時間とかかったコスト以上の「利益」が見込める環境があったときだけに新しいアイデアは浮かびます。私たちは努力に合った「利益」がないと動けない生き物です。

この「利益」の中身ですが、なにも金銭的なものだけではありません、他人からほめられたり、承認されたりするのも大きい利益です。もちろん自分が楽しいのも「利益」になります。

もしも、苦労して開発したとしても、楽しくないし、誰も相手にしてくれないし、将来に渡って金銭的な望みも得られなさそうと判断した場合は私たちはそれをやめるでしょう。
また、運よく独自の商品開発が出来たとしても、それをすぐにまねされたり、模倣品が出回って自分の努力が水の泡になってしまうなら、やっぱり苦労して研究に取り組む人はいなくなります。

なので、苦労が水の泡にならないようにするにはルールをつくって開発者を保護することが有効になります。ここで政府の出番となります。政府はその権力で「知的財産権」という法律をつくって、開発者を守っています。

私たちも自分が考えたちょっとしたアイデアを盗まれて悔しい思いをすることがありますが、そんなときこのような権利があることを知っていると、また違った対応ができるはずです。

今では自分の作品である画像や動画を簡単に公表できるようになっています。「知的財産権」なんて全く関係がないことと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、SNSでの公表はすでに法律で守られる作品になっていて権利が生じています。「知的財産権」は、私たちにとっても身近な法律なのです。

知的財産基本法

私も昔、あるネット画像を勝手に拝借したことがあります。その方に連絡をしたら「使ってはいけない」と言われ、削除した経験があります。丁寧に教えていただいた方には感謝しかありません。

「知的財産権」とは、私たちが知的創造活動によって生み出したものは、それを創作した人の「財産」とみなして保護していこう。という考えから作られた法律です。

日本の知的財産権は、大きく分けて「産業財産権」と「著作権」の2つに分けられます。

産業財産権

産業財産権は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つがあります。

  • 特許権
    発明を保護する権利です。発明とは自然法則を利用した技術的な創作のことです。その発明の新規性、進歩性、産業上の利用可能性を備えている必要があります。特許権を取得すると、一定期間(20年)独占的にその発明を実施する権利が得られます。
  • 実用新案権
    発明に比べて創作性が低いものを保護する権利です。実用新案とは従来技術に比べて実用的価値を有する技術的思想の創作のことを指します。実用新案権を取得すると、一定期間(10年)独占的にその実用新案を実施する権利が得られます。
  • 意匠権
    工業製品のデザインを保護する権利です。意匠とは工業製品の形状、模様、色彩またはこれらの全体です。見た目が美しく、今まで見たこともない創作性を備えている必要があります。意匠権を取得すると、一定期間(20年)独占的にその意匠を実施する権利が得られます。
  • 商標権
    商品やその役割を識別する標識を保護する権利です。商標とは文字、図形、記号、立体形状、色彩、音、動きまたはこれらの全体です。商品又は役割の識別に役立つもので、新しくて他者との区別がつくものです。商標権を取得すると、一定期間(10年)独占的にその商標を使用する権利が得られます。

著作権

著作権とは、著作物を創作した人に対して付与される権利です。

著作権は、著作者が著作物を創作したときに自動的に発生します。したがって、権利を得るためにどんな手続きも必要ありません。このことは、著作権に関しては、国際的ルールとなっています。

著作権とは、自分が創作した著作物を無断でコピーされたり、インターネットで利用されない権利です。もしも他人がその著作物を「利用したい」といってきたときは、権利が制限されているいくつかの場合を除き、条件をつけて利用を許可したり、利用を拒否したりできます。

著作物とは、具体的には次のようなものを指しています。
著作者の表現した思想又は感情、文芸、学術、美術、音楽、演劇、映画、舞踊、図形、美術工芸、建築、写真、プログラム、商品表示、地図、地形、建築模型の著作物を指します。
はじめて学ぶ著作権 (bunka.go.jp)

著作権は特別な手続きはをする必要なく作品を公表するとすべてに著作権が適応されるしくみになっています。著作権を侵害された場合には、侵害の差止め、損害賠償、不正競争防止法に基づく差止請求等の措置をとることができます。

また、知的財産権としてその他に育成者権、地理的表示、不正競争防止法上の権利などがあります。

  • 育成者権は、農作物の品種改良を保護する権利
  • 地理的表示は、特定の地域で生産された農林水産物やその加工品を保護する権利
  • 不正競争防止法上の権利は、不正競争行為による他人の営業上の利益の侵害を防止するために定められた権利

企業秘密

知的財産権ではないのですが「不正競争防止法」という法律があります。

不正競争防止法は、知的財産権を保護する目的で制定された法律ではないのですが、不正競争行為の中には、知的財産権を侵害する行為と密接な関係がある「企業秘密」の項目があります。

例えば、営業秘密の侵害は、不正競争防止法第2条第1項第1号に規定される「営業秘密の侵害」に該当します。営業秘密は著作権と同じ、登録や出願などの手続きを必要とせずに保護される権利です。自社の強みとなるような作り方、その方法など一般的に知られていないもの、また知られないように努めているものなどは「企業の秘密」として不正競争防止法によって保護されます。

コカ・コーラのレシピは秘密

例えば、企業秘密でもっとも有名なのは、コカ・コーラのレシピではないでしょうか?

コカ・コーラ社は、コカ・コーラの作り方を1886年の発売以来ずっと秘密にしています。その秘密は、アトランタにある銀行の金庫に保管されています、と公表されています。
コカ・コーラの作り方は、7つの原材料と製造方法で構成されています。原材料は、コーラの実、ナツメグ、シナモン、レモングラス、オレンジピール、ライムピール、コーヒー豆です。製造方法は、これらの原材料を混ぜて煮詰め、砂糖と炭酸水を加えて作ります。

コカ・コーラ社は、コカ・コーラの作り方を秘密にすることで、競合他社との差別化を図り、ブランド価値を高めています。また、コカ・コーラの作り方が秘密であることで、消費者の好奇心を刺激し、話題性を高める効果もあります。

コカ・コーラの作り方は、これまで何度か流出の噂が流れましたが、いずれも真実ではありませんでした。2011年には、アメリカの地方紙が、コカ・コーラの作り方とされるレシピを掲載しましたが、コカ・コーラ社は、そのレシピは本物ではないと否定しました。

コカ・コーラの作り方が、いつの日か公に公開されるかはわかりません。しかし、コカ・コーラの秘密は、これからも世界中の人々の興味を惹き続けることでしょう。

ソフトバンクから楽天モバイルに不正に情報が渡った事件

企業秘密を不正に流出させた最近の事件で有名なのは、2022年のソフトバンクの基地局業務担当社員が、4Gや5Gの基地局に関する技術情報を持ち出して競合の楽天モバイルへ転職した事件がありました。

この事件では、ソフトバンクの基地局業務担当社員であったA氏が、2019年11月ごろから退職日までの間、会社のメールアドレスから個人のメールアドレスに送ったりクラウドストレージにアップロードしたりすることで、ソフトバンクのネットワーク情報が含まれた多数の電子ファイルなどを持ち出しました。

A氏は2020年12月に楽天モバイルへ転職し同社で基地局の開設や運用に携わっていました。A氏は持ち出した情報を楽天モバイルで利用していた疑いがあり、2021年1月12日に不正競争防止法違反(営業秘密領得)の疑いで警視庁に逮捕されます。

A氏は、2022年12月9日に東京地方裁判所から懲役2年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を受けました。

この事件は、競合他社への営業秘密の持ち出しという重大な不正行為であり、大きな社会的影響を与えました。この事件を受けてソフトバンクと楽天モバイルは両社で協議し情報の流出を防止するための対策を講じることを発表しています。

また、この事件は政府も動かしました。政府はこの事件をきっかけにして企業秘密の保護に関する新たな法整備を検討しています。

まとめ

知的財産権について見てきました。
私たちが表現したものはすべて、その人や企業の持つ「財産」の一部として扱って保護していく知的財産権というルールがつくられています。この法があるので、私たちが不正に表現を盗まれたと感じた場合、訴えることができます。

けれど、知的財産権が守られているにもかかわらず、技術革新に成功した企業は本来受けるべき利益の20%から30%しか受け取れていないのが現状と言われています。残りの価値はその製品を買う消費者や競合他社に持っていかれてしまっています。

このためさらに政府では技術開発促進のためさまざまな助成金を用意しています。
次回はその助成金の光と影について解説します。お楽しみに!

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
知的財産権について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)
著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

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