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労働供給と需要のバランスが、あなたの働き方にどう影響するのか

労働供給と需要のバランスが、あなたの働き方にどう影響するのか

あなたは「労働」ということに対してどんな印象をお持ちでしょうか?

「労働」は、人によっていろいろな感情が沸き立ち、一人一人さまざまな考え方を持っていらっしゃるかと思います。

ここでは、そんな「労働」の意味は考えずに「労働」を単なる「賃金」と「労働の量」として捉えて、労働を客観視してみましょう。

私たちは、つい「労働」を個人的なものと捉えがちですが、経済学的な視点で「労働」を見つめれば、「労働」に対してきっとまた違った視点を持つことができ、選択肢が広がり、労働に関する問題の解決の糸口を見つけやすくなります。

ぜひここで「労働」に対して、新しい視点を身につけて、日常の問題解決に役立ててください。

労働市場の曲線

経済学で「労働」と言えば、「生産活動に関わる人間の努力」のことを指します。
例えば、雇用主と契約して働く人、自ら事業を行う自営業の人、直接賃金の発生しない家事労働、またボランティア活動などすべての活動が「労働」にあたります。

ここではその中でも代表的な「雇用関係を結ぶ労働」に注目していきます。

「雇用契約が結ばれた労働」とは、労働をしてほしい企業労働を提供したい人が、賃金で結び付いて成立する関係です。

経済学では、雇用したい企業を「需要」、労働したい人を「供給」と呼びます。

有名な「需要と供給の曲線」があるように、労働市場にも同じ需要と供給の関係があります。

需要供給曲線

このような曲線が「労働」にも当てはまります。

労働市場の需要

ここではまず、右に下がっている曲線の方から見ていきましょう。
グラフの縦の線は「賃金」です。
上に行くほど賃金は高くなります。
横の線は「労働したい人の量(時間)」です。
今は、求人数と表すと感覚的に分かりやすいので求人数にしました。

この右に下がっている曲線は「賃金の差によって労働をしてもらいたい人の量の差」があることを示しています。

一般的に、賃金が低いほど企業は多くの労働者を雇用したいと考え、賃金が高いほど雇用したい労働者の数は減少します。これは、企業が利益を最大化しようとするため、賃金に対して敏感に反応するためです。

つまり、同じ仕事ならより安い賃金で雇用できる人を集めた方が、利益を最大化できます。企業のコスト削減のため、労働単価が上がると労働者の数を減らそうとすることから、このようなことが起こります。

労働の需要曲線の変化

需要曲線は右下がりですが、この曲線のカーブ下がり方がどの程度になるのかは、つまり賃金が低くなるとどのくらい求人が増えるのかは、弾力性を考えると見えてきます。

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労働の需要は、短期的にみると弾力性がありません。
なぜなら、賃金が上がったとしても、企業が急に解雇することはないので、求人数がすぐに減るということはありません。

しかし長期的にみると、労働市場は弾力的になります。
例えば、工場の効率化を進め大規模な労働者の削減を行うことがあります。日本の自動車メーカーが、国内工場を閉鎖し海外に工場を構えると雇用が減ります。また新しいテクノロジーを導入したときも雇用が失われる場合があります。

現実的にはパンデミックや経済不況、政策などで、急に労働の需要が変化することがありますが、通常は、賃金に合わせて求人は緩やかに変化していきます。

需要曲線がシフトするとき

賃金の高い時は求人数は少なく、低いと求人数が多くなる需要曲線ですが、ときには同じ賃金でも企業が求人数を変化させることがあります。
その場合は曲線が、右に行ったり、左に行ったりシフトすることがあります。

労働の需要曲線のシフト

労働の需要曲線が右にシフトするとき

  • 製品の需要増加
    企業の製品やサービスに対する需要が増えると、生産を増やすために労働者を多く雇用しようとするため、労働需要は増加します。
  • 生産性の向上
    技術革新や労働者のスキルアップにより、労働生産性が向上すると、同じ数の労働者でより多くの製品を生産できるようになるため、労働需要は増加します。
  • 賃金以外の要素のコスト低下
    賃金以外の生産コスト(原材料費、エネルギーコストなど)が低下すると、企業の利益が増加し、労働者を雇用できる余力が大きくなるため、労働需要は増加します。
  • 資本設備の増加
    機械や設備などの資本設備が増えれば、労働者の生産性を高め、労働需要を増加させる可能性があります。
  • 政府の補助金や税制優遇
    政府が企業の雇用を促進するための補助金や税制優遇措置を導入すると、企業は労働者を雇用しやすくなり、労働需要は増加します。

労働の需要曲線が左にシフトするとき

  • 製品の需要減少
    企業の製品やサービスに対する需要が減少すると、生産を縮小するために労働者を解雇し、労働需要は減少します。
  • 生産性の低下
    技術の陳腐化や労働者のスキル低下により、労働生産性が低下すると、同じ量の製品を生産するためにより多くの労働者が必要となり、労働需要は減少します。
  • 賃金以外の要素のコスト上昇
    賃金以外の生産コスト(原材料費、エネルギーコストなど)が上昇すると、企業の利益が減少するため、労働者を雇用できる余力が小さくなり、労働需要は減少します。
  • 資本設備の減少
    機械や設備などの資本設備が減少すると、労働者の生産性が低下し、労働需要は減少する可能性があります。
  • 政府の規制強化
    政府が企業の雇用に関する規制を強化すると、企業は労働者を雇用することが困難になり、労働需要は減少します。


このように、企業が人を雇うかどうかは、その生産性にかかっています。
人を雇うことでどれだけのモノが生み出されるのか? 
それは賃金に見合っているのか? 
賃金に見合うだけの売り上げが上がらなければ、企業は人を雇わないということなのです。

労働市場の供給 

次に、働きたい側「労働の供給」を見ていきましょう。

ここでいう「労働の供給」とは、雇用契約を結んで仕事をしたいと思っている個人と考えてください。

私たち一人ひとりが持っている、その能力や時間を社会に提供すること、それが労働市場の供給にあたります。

「労働の供給」は、労働の需要と同じように、働きたい人の量と賃金の関係で表されます。
供給は需要と反対に右上がりの線になります。

一般的に、労働の供給曲線は右上がりです。
つまり、賃金が上がると、労働を供給したい人が増えるという傾向があります。

これは、経済学の一般的な法則である供給の法則が労働にも当てはまるからです。

  • 賃金が低い場合
    • 賃金で得られる収入が少ないため、余暇を優先したり、別の仕事を探したりする人が増え、労働を供給したい人は減ります。
    • 賃金が生活費を賄えない場合、労働を供給しても意味がないと考える人もいるでしょう。
  • 賃金が高い場合
    • 賃金で得られる収入が多いので、より多くの時間労働に充てるインセンティブが高まります。
    • 高い収入を得ることで、より良い生活を送れるという期待も働き、労働を供給したい人が増えます。

しかし、この法則は必ずしも絶対ではありません。

  • 賃金が非常に高い場合
    • ある一定の所得を超えると、収入よりも余暇を優先する人が増える可能性もあります。
    • 非常に高い賃金は、逆に労働意欲を低下させる場合もあるのです。
  • 非貨幣的報酬
    • 賃金だけでなく、仕事内容の面白さ、職場環境、社会貢献性など、非貨幣的な報酬も労働供給に影響を与えます。
    • 高い賃金よりも、これらの非貨幣的な報酬を重視する人もいます。
  • 労働者の異質性
    • 人によって労働に対する価値観や事情が異なるため、一概に賃金だけで労働供給を説明することはできません。
    • 学生や高齢者、子育て中の女性など、労働供給への影響は人によって異なります。

一般的には、賃金が上がると労働供給は増加すると考えられています。
しかし、必ずしも賃金だけが労働供給を決定するわけではなく、労働供給は賃金だけでなく、非貨幣的な報酬や労働者の特性など、様々な要因によって影響を受けることが分かっています。

では、賃金の変化は労働の供給、つまり働きたい人の量にどのくらい影響があるのでしょうか?

労働の供給曲線の変化

賃金の変化に対する、働きたい人の量の変化を考えるには、「弾力性」を参考にすることができます。

働きたい人の弾力性を考えると、賃金が変化した場合、働く人の労働時間はどのように変化するのかを知ることができます。賃金が増えた場合働く時間を増やすのかどうか、その反応の度合いが分かるのです。

働きたい人の弾力性は、その人の働きたい時間、フルタイムなのかパートなのか、その長さによって違います。

フルタイムで働いている人は(週に40時間程度)弾力性が賃金が変化したとしても、その求人数に変化があまり見られません。なせなら、一日の時間は24時間しかないので、フルタイムで働いていればそれ以上働く時間を増やすことはできないからです。

パートの場合、労働者の供給は弾力的になります。
パートの賃金を10%上げると、労働時間が10%より大きく増える傾向がありますし10%以上働きたい人が増えます。パートタイムで働く場合時間が比較的自由にできるので、時間を延ばすことも簡単にできるからですね。

現実的には賃金だけで仕事先を選ぶ人は少ないですが、賃金と働きたい人の関係は、賃金が高ければ増えていく傾向があります。

供給曲線がシフトするとき

この労働の供給曲線も、同じ賃金でも労働者が提供する労働量を変化させることがあり、曲線は右に、左にシフトします。
具体的な例を見ていきましょう。

労働の供給曲線が右にシフトするとき

  • 労働人口の増加
    人口増加や、女性の労働参加率の上昇などによって、労働力人口が増加すると労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。
  • 教育・技能の向上
    労働者の教育レベルや技能が高まると、より高い賃金で雇用されることが期待できるため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。
  • 社会保障制度の充実
    社会保障制度が充実すると、労働者はより低い賃金でも働いても生活できるため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトする可能性があります。
  • 最低賃金の引き上げ
    最低賃金が引き上げられると、労働者はより低い賃金で働くことを拒否するようになるため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトする可能性があります。しかし、最低賃金の引き上げ幅が小さい場合や、労働者にとって魅力的な仕事が増えている場合には、労働供給量は増加して、供給曲線が右にシフトする可能性もあります。
  • 技術革新
    技術革新によって新しい仕事が創造されると、労働供給量が増加し、供給曲線が右にシフトします。例えば、近年では、IT技術の発展によって、在宅勤務やフリーランスの仕事が増加しており、これが労働供給量の増加につながっています。
  • 経済成長
    経済が成長すると、企業はより多くの労働者を雇用するため、労働供給量が増加し、供給曲線が右にシフトします。

労働の供給曲線が左にシフトするとき

  • 労働人口の減少
    少子高齢化や人口流出などによって、労働力人口が減少すると、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトします。
  • 教育・技能の低下
    労働者の教育レベルや技能が低下すると、より低い賃金でしか雇用されないため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトします。
  • 社会保障制度の縮小
    社会保障制度が縮小されると、労働者はより高い賃金でないと働かないため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトする可能性があります。
  • 定年年齢の引き上げ
    定年年齢が引き上げられると、高齢者が労働市場に残るため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。しかし、高齢者の能力や体力によっては、必ずしも労働供給量が増加するとは限りません。
  • 産業構造の変化
    労働集約型産業からサービス産業へのシフトなど、産業構造が変化すると、必要な労働力が変化し、労働供給曲線がシフトする可能性があります。
  • 経済停滞
    経済が停滞すると、企業は労働者を解雇し、失業が発生します。これは、労働供給量>労働需要量という状態であり、労働供給過剰と呼ばれます。

労働供給曲線が右にシフトすると、一般的に賃金は低下する傾向があります。これは、労働者が多く供給されるため、企業は賃金を下げても労働者を多く雇用できるようになるためです。
けれど、雇用の増加は、労働需要の状況によっては、賃金が低下し、雇用が減少する場合もあります。

まとめ

雇用契約を結ぶ労働についての、需要と供給について解説しました。

働いてもらいたいという「需要」を持っているのは企業で、働くことを提供する「供給」を持つのは労働者でした。
その需要と供給が賃金によって結ばれるのが契約労働の形です。

一般的には、賃金の低い労働は、企業が多くの人に働いてもらいたいと思うのでたくさんあります。逆に賃金の高い仕事は多くありません。企業はコストを抑え、利益を最大化させるためにこのような行動をとります。

労働者側は、賃金が低い仕事には人はあまり集まりません。賃金が高くなると人はより働こうとする傾向があります。

経済が活性化したり、技術革新で生産性がアップすれば、需要、供給ともに曲線自身が右にシフトしたり、逆に不況や人口減少などで経済が停滞すれば曲線は左へシフトします。
これによって、同じ賃金であっても企業の雇用数や人々の労働に費やしたい時間が変化します。

労働は私たち一人一人にとって個人的なもので、生活の大きな部分を占めています。
けれど、経済学の視点からとらえると、労働は生産性の価値が賃金で表されることや、賃金は需要と供給のバランスによって決まってくることなどが分かり、自分の能力をより広い視点から眺めることで、自分の売り出し方や労働条件の改善を考えるときに役に立つでしょう。

個人の経験をより広い文脈で捉え、新たな発見や理解を得るためにこのブログがお役に立てればうれしいです。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
厚生労働省 アメリカ (mhlw.go.jp)
統計局ホームページ/人口推計 (stat.go.jp)

PR:株式会社レオナビューティー

RP:株式会社イワミズ

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