ぽれぽれ経済学

貧困と福祉

「市場経済」は貧富の差を生みやすいシステムといわれています。
だからといって「計画経済」が良いのかといえば、計画経済を取った国でも貧富の差はなくならず、さらにすべての人の生活水準が下がる傾向があります。生活水準が下がれば貧困におちいる人々も増えていくので良い方法とは言えません。

「市場経済」は最善な方法ではないかもしれませんが、知られている中では一番良い方法なので、なんとか工夫していこう、というのが多くの国の方針です。

ここでは、経済からみた「貧困」についてとその対策について解説します。

貧困が生まれる主な原因

なぜ貧困が生まれるのでしょうか?
実は貧困の原因は、一つに絞ることが難しく、様々な要因が複雑に絡み合っています。
ここでは、主な原因をいくつかご紹介します。

  • 経済的な要因
    • 不平等な所得分配
      富の集中により、一部の人々が非常に豊かになり、多くの人々が十分な収入を得られない状況から生まれる。
    • 経済成長の遅さ
      経済が十分に成長せず、雇用が創出されないことで貧困が拡大する可能性があります。
    • 自然災害
      地震、台風、干ばつなどの自然災害は、インフラの破壊や農作物の損失を引き起こし、人々を貧困に陥らせることがあります。
  • 社会的な要因
    • 教育の機会の不平等
      質の高い教育を受けられない人々は、良い仕事に就くことが難しく、貧困から抜け出すことが困難になります。
    • 差別
      性別、人種、民族、宗教などに対する差別は、特定のグループの人々が貧困に陥りやすい状況を生み出します。
    • 政治的な不安定
      政情不安や紛争は、経済活動の停滞やインフラの破壊を引き起こし、貧困を悪化させます。
  • 歴史的な要因
    過去の植民地支配は、経済構造や社会システムに歪みをもたらし、貧困の根深い原因となっている場合があります。
  • 個人の要因
    • 健康問題
      重い病気や障害を持つ人は、労働能力が低下し、貧困に陥りやすくなります。
    • 依存症
      アルコールや薬物依存症は、個人の生活を崩壊させ、貧困の原因となることがあります。

このような要因が絡み合って貧困が生まれると考えられています。

そもそも貧困とは

日本で「貧困」とはどのように計算されているのか簡単に見ていきましょう。

貧困は、主に「相対的貧困」として算出されています。
相対的貧困とは世帯の可処分所得が世帯人員の平方根で割った等価可処分所得の中央値の半分未満である状態を意味します。

具体的には、厚生労働省が実施する「国民生活基礎調査」を元にして世帯の「可処分所得」を調査しています。可処分所得とは、収入から税金や社会保険料などの支出を差し引いた金額のことです。この調査結果をもとに、世帯人員の平方根で割った等価可処分所得の中央値を算出します。そして、その中央値の半分を「貧困ライン」として設定しています。

2022年の日本の貧困ライン

  • 単身世帯で約127万円
  • 2人世帯で約175万円
  • 3人世帯で約215万円
  • 4人世帯で約248万円

また、人口に占める貧困層の割合を貧困率として公表しています。
日本の貧困率は、2022年で約15.3%となっています。これはOECD加盟国の平均の上回る貧困率で、またG7の中で最も高い割合です。

ちなみにこの日本の貧困の算出方法は、あくまでもひとつの指標です。
開発途上国では、絶対的貧困率が使用されることが多いです。

これは、最低限の生活を送るために必要な最低限の所得を下回っている人の割合を示すものであり、世界銀行が定めた1日1.9ドル(約220円)が基準として使用されています。

貧困の定義や算出方法は、国によって異なるため、日本の貧困の実態を正確に把握するためには、さまざまな角度から検討する必要があります。

日本の貧困対策

日本の貧困対策は、主に以下の3つの柱から構成されています。

  • 教育支援
  • 経済支援
  • 就労支援

教育支援
教育支援は、子どもたちが貧困から抜け出すための重要な要素です。義務教育の就学援助や高等学校等就学支援金制度など、子どもの教育費を支援する制度があります。
また、子どもの貧困を解決するためには、教育の質を高めることも重要です。近年では、学力格差や教育格差の解消に向けた取り組みが進められています。
教育:文部科学省 (mext.go.jp)

経済支援
経済支援は、貧困世帯の生活を支えるためのものです。生活保護や児童扶養手当など、生活に困窮している世帯を支援する制度があります。また、貧困世帯の経済的自立を支援するために、就労支援や起業支援などの取り組みも進められています。
生活保護を申請したい方へ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
特別児童扶養手当・特別障害者手当等 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

就労支援
就労支援は、貧困世帯の就労機会を創出するためのものです。就労訓練や職業紹介など、就労に困難を抱える世帯を支援する制度があります。また、貧困世帯の就労意欲を高めるために、教育やキャリア支援などの取り組みも進められています。
仕事をお探しの方へ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

近年では、貧困対策に取り組む民間団体も増えています。これらの団体は、教育支援や生活支援、就労支援などさまざまな分野で貧困対策に取り組んでいます。しかし、相対的貧困率は依然として高く貧困の解消にはさらなる努力が必要です。

貧困から抜けだしてもらうためには

「人に魚を与えれば1日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける」という分かりやすい古い言い伝えがあります。

この言葉の意味は「人に魚を与えると一時的な飢えを満たすことができます、けれど魚の釣り方を教えれば、その人が自分で魚を獲ることができるようになるため一生涯の糧となる」という教えです。

この教えのように貧困対策は、貧困層に直接的に現金や食料を配給するだけではなく、教育や就労支援などを通じて自立して生活できる力を身につけてもらうことが大切です。

貧困から抜け出すための3つのポイント

  • 自立した生活を送るための力を身につける
  • 自分で問題を解決する力を身につける
  • 継続的に学び、成長する力を身につける

貧困の罠

けれど現実的には難しい面がたくさんあります。
当面の生活費を与えることと、長期的な教育訓練との間には共存できない関係になるからです。
釣りの練習をしている間、なにも食べないというわけにはいきません。けれど練習している間だけ魚を与えて、釣りを覚えたらいきなり魚を取り上げていいのでしょうか? また、魚をもらうことに慣れてしまって、釣りを覚えようとしなくなる人はいないのでしょうか?

貧困を助けるためのプログラムには、つねにそうした葛藤がつきまといます。金銭支援が充実していて働くより支援を受けたままでいる方が有利な場合、自分で何とかしようという意欲がなくなり、支援の意味がなくなってしまいます。このような「貧困の罠」にかからないように、貧困支援は次のような支援をバランスよく行うことが大切です。

  • 経済的な支援の充実
    生活保護を受給する人の経済的な負担を軽減することは、働く意欲を高めるうえで重要なことです。政府は生活保護の給付額の引き上げや、生活保護受給者に対する税金の減免などの対策を講じています。
  • 精神的な支援の充実
    生活保護を受給する人はさまざまな理由で困窮しています。そのため精神的な支援を受けることで働く意欲を高めることができます。例えば就労支援や生活相談窓口が各行政機関にあり支援を受けることが出来ます。
  • 社会的・制度的な支援の充実
    生活保護制度には働く意欲を高めるための支援が十分に整備されていないという指摘もあります。そのため就労訓練や就職支援、また職場に定着支援事業などを充実させることが重要です。

また、一人一人に合ったきめ細やかな対策には政府や自治体だけでなく、民間やNPOの力を借りる方法もあります。政府の支援を受けた民間企業による就労支援事業の実施やNPOによる生活相談事業の実施、地域コミュニティによる見守り・支援活動は、個人に合わせたプログラムをつくるのに最適です。

私たちができることは、貧困に陥っている人に対して生活ギリギリのお金を分け与えることではありません。目まぐるしく変化と成長を続けていく社会の中で、自分の力で生きていけるだけの技能を身につけてもらうことなのです。

まとめ

貧困とその支援について解説しました。
私たちの住む市場経済のシステムでは、人気のあるモノに富が集中すること、一人一人の能力に差があること、そして資本家に富が集中する社会になっています。そのため貧困に陥る人が生まれます。

貧困とは国によってその算出方法が違います。日本では全国民の平均の収入からどれだけ離れているかを元にして貧困の度合いを測っています。そしてその計算を元に支援が決められていきます。

支援は支援金や税金の減額また就労支援などですが、支援金を分け与えることだけでは、働く意欲が失われることがあります。一人一人が自立した生活を取り戻せるように、精神的な支援も同時に行っていくことが大切です。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
日本における貧困の実態 | グラミン日本 (grameen.jp)

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