あなたは「フジツボ」という生き物をご存じでしょうか?
「海岸についている踏んだら痛いやつ」
「船にくっついてみんなを困らせる生き物!」
などなど、いろいろなご意見があるかと思います。
ここでは、そんな海の小さな生き物の仲間フジツボをご紹介いたします。
フジツボはパッと見ると、なんだか死んだ貝のようですが、実はしぶとく生きているんです・・・!
海に生きる愉快な仲間たちをご紹介します。
フジツボから見つかった最新の研究や、フジツボの楽しい観察の仕方も紹介しています。
ぜひご覧ください!

あなたも今日からフジツボ博士
上にご紹介したフジツボは「クロフジツボ」という名前のフジツボです。
フジツボにはたくさんの種類がいることが知られていて、なんと世界では約800種類いることが分かっています。
クロフジツボは、その中でも大きくて立派です。
彼らの住んでいるところは海にある、岩などにくっついて生活しています。
ちょっと近づいて、その富士山のような生き物をのぞいて見ましょう!
彼らはどんな生き方をしているのでしょうか?
幼いころは動けたフジツボ
フジツボは動物です。
動物とは、その名の通り「動くもの」ということのはずですが、フジツボは、岩などにくっつくと、そこから移動することをやめてしまいます。
実はフジツボは、生まれたてのころは動ける体を持っていました。

なんだか全く違う姿ですよね?
実は、フジツボの仲間は1829年まで貝の仲間として登録されていました。
岩にくっついているし、
石灰質で出来た殻を持っているし・・・
貝でいいだろ、と当時の研究者も考えたのですが、フジツボたちをよく観察したところ、カニやエビのような「ノープリウス幼生期」という特別な姿になる時期を過ごすことが分かったので1829年にカニやエビの仲間に変更されました。
「ノープリウス幼生」とは、不思議な名前なのですが、とってもおもしろい特徴を持っているので、詳しく見ていきましょう。
ノープリウス幼生期の主な特徴
フジツボは雌の体の中で卵からふ化して「ノープリウス幼生」になります。
ノープリウス幼生とはどのような特徴をもっているのでしょうか?
- その姿
- 形
ノープリウス幼生は種類によって形は違いますが、一般的に洋梨型または卵型をしており、ノープリウス眼と呼ばれる単眼を持つことが特徴です。 - 付属肢
ノープリウス幼生は3対の付属肢を持ちます。
これらは、第一触角(触角小肢)、第二触角(触角大肢)、そして大顎です。
これらの付属肢は、主に遊泳と摂餌のために使用されます。特に第二触角は大きく発達しており、海の中を泳ぐ器官として使われます。 - 殻
ノープリウス幼生は殻を持ちません。
体はキチン質の外骨格で覆われていますが、フジツボ成体のような石灰質の殻はまだ持っていません。
- 形
- 遊泳能力
- ノープリウス幼生は活発な遊泳能力を持ちます。
第二触角を主な推進力として、水中を自由に動き回ります。
この遊泳能力は、プランクトンとして分散し、新しい生息地を探します。
- ノープリウス幼生は活発な遊泳能力を持ちます。
- 摂餌
- ノープリウス幼生はプランクトンを食べます。
付属肢に生えた繊毛を使って水中の細かい藻類やプランクトンを集め、口に運びます。
- ノープリウス幼生はプランクトンを食べます。
- 生活様式
- ノープリウス幼生は、海の中をあちこち浮遊する生活を送ります。
水流に乗って広範囲に分散し、住み心地の良いとこをを見つけるまで成長を続けます。
- ノープリウス幼生は、海の中をあちこち浮遊する生活を送ります。
- 変態
- ノープリウス幼生は数回の脱皮を繰り返しながら成長し、最終的にキプリス幼生へと変態します。キプリス幼生は、ノープリウス時代に見つけた良い場所にくっつくための準備する姿です。
このような特徴を持った「ノープリウス幼生」は、母親の体の中で少し大きくなるまで育てられ、海に放たれます。
キプリス幼生の特徴
海に放たれた「ノープリウス幼生」は、海を漂って成長していきます。
そして、6回の脱皮をすると、さらにフジツボ独特な劇的な変態を迎えます。
それは「キプリス幼生」と呼ばれています。
キプリス幼生には、大切な役割を果たすための大きな特徴があります。
- 二枚貝状の殻
キプリス幼生は、自分の身を守る二枚貝のようなキチン質でできた殻を持っています。 - 複眼
キプリス幼生は、光を感じるための複眼を持っています。
これは、生息場所を選ぶ際に、光の方向や明るさを感知するために役立つと考えられます。 - 触角(第1触角、第2触角)
キプリス幼生は、2対の触角を持っています。- 第1触角(antennule)特に重要な感覚器官で、ものの表面を見極めることができます。 キプリス幼生は、この第1触角を使って、岩や他の生物の表面を「味見」し、付着に適した場所かどうかを判断すると考えられています。もし、良い場所が見つかれば第一触角を使ってくっついて、そこからセメント物質を出して固着することができます。
- 第2触角(antenna)遊泳や、一時的な付着にも使われることがあります。
- 胸脚
キプリス幼生は、胸脚を持っていますが、ノープリウス幼生のような遊泳脚としてではなく、主に基質表面を歩行したり、殻の中へ水流を作り出すために使われます。
このようにキプリス幼生は、自力で泳いだり潮流に乗ったりして、良い場所に付いて見たり、気に入らなかったらまた違う場所を探したりするなどを繰り返して、固着に適した場所を探します。
フジツボの種類によって、好きな住みかは違っていますが、岩、貝殻、船底、海藻など、様々な場所に固着することができます。
適切な場所を見つけると、キプリス幼生は付着盤から接着物質を分泌し、基質に永久的に固着します。
その後、劇的な変態(メタモルフォーゼ)を起こし、成体のフジツボの形へと変化します。
この変態の過程で、殻は石灰質になり、成体の特徴である富士山型の殻がつくられるのです。
フジツボの食事方法
岩などにくっついた大人のフジツボですが、動かないのにどうやって食事をするのか気になりますね。
彼らの食事方法はとてもユニークで面白いんですよ!
フジツボは、海水の中に漂っている小さな食べ物を濾し取って食べる「濾過摂食」という方法で食事をしています。 まるで、海水を口でゴクゴク飲むのではなく、海水の中から必要な栄養だけを上手にすくい取るイメージです。

フジツボが食事をするために使うのは、「触手(しょくしゅ)」と呼ばれる、まるで手のひらのような、または羽根のようなヒゲです。 普段は殻の中にしまわれていますが、食事の時間になると、殻の口をパカっと開けて、この触手をニョキニョキと外に出します。
この触手は、実はフジツボの足が変化したものなんです! エビやカニの仲間である甲殻類の特徴がよく出ていますね。 この触手を海水の中に広げて、プランクトンなどの食べ物をキャッチして、奥にある口に運んで消化します。
フジツボが食べているものは、主に海水中に漂う小さなプランクトンです。 植物プランクトンや動物プランクトン、小さな有機物の粒子など、目に見えないような小さな生き物やかけらを、触手で濾し取って食べています。
フジツボは、水がある時、つまり潮が満ちている時や、波が打ち寄せている時などに食事をします。 潮が引いて陸の上に露出してしまうと、触手を出すことができなくなるため、食事はお休みです。 また、海水の流れがある場所の方が、プランクトンが運ばれてきやすいので、効率的に食事をすることができます。
このように、フジツボは動かないように見えても、水中でしっかりと生きていくためのユニークな食事方法を持っているんです。 次に海に行った時には、フジツボが触手を伸ばして食事をしている様子を観察してみるのも面白いかもしれませんね!
フジツボから見つかった新しい研究
近年、特に注目されている研究分野をいくつかご紹介します。
1.フジツボの接着剤に関する研究
フジツボは、非常に強力な接着剤を使って岩や船底などに固着することで知られています。この接着剤は、水中で、しかも多様な環境下で機能するため、科学者たちはそのメカニズムに非常に興味を持っています。
- 新しい接着タンパク質の発見と解析
フジツボの接着剤には、多様なタンパク質が含まれています。
近年、新しい種類の接着タンパク質が発見され、その構造や機能が詳しく解析されています。これらの研究は、フジツボがどのようにして強力な接着力を実現しているのかを理解する上で非常に重要です。
また、これらのタンパク質の構造を模倣することで、新しい高性能な接着剤の開発に繋がる可能性も秘めています。 (フジツボが基盤に接着する様子と、接着剤層の断面の模式図。接着タンパク質がどのように配置されているかを示す。) - 医療用接着剤への応用
フジツボの接着剤の特性は、医療分野での応用も期待されています。
例えば、手術後の創傷閉鎖や、骨折治療における新しい接着剤として利用できる可能性があります。生体適合性が高く、水に濡れた状態でも強力に接着する接着剤は、従来の医療用接着剤にはない利点を持つと考えられています。 (手術創をフジツボ由来の接着剤で閉じる様子、または骨折部位を接着するイメージ。)
2.フジツボの生態と環境に関する研究
フジツボは、海洋生態系において重要な役割を果たしており、環境変化の影響を受けやすい生物でもあります。
- 気候変動と海洋酸性化の影響
地球温暖化による海水温の上昇や海洋酸性化が、フジツボの生息や分布にどのような影響を与えるのかが研究されています。フジツボは、炭酸カルシウムでできた殻を持つため、海洋酸性化によって殻の形成が阻害される可能性があります。
また、水温上昇によって生息域が変化する可能性も指摘されています。これらの研究は、海洋生態系全体の変動を予測する上で重要です。 (海洋酸性化によってフジツボの殻が溶ける様子、または生息環境の変化を示すグラフなど。) - マイクロプラスチックの蓄積
海洋汚染の深刻化に伴い、フジツボがマイクロプラスチックを体内に蓄積する可能性が研究されています。フジツボは濾過摂食を行うため、海水中のマイクロプラスチックを摂取してしまう可能性があります。フジツボにおけるマイクロプラスチックの蓄積量や、それが生態系に与える影響について、さらなる研究が求められています。 (マイクロプラスチックが浮遊する海水中で、フジツボが触手を使って濾過摂食するイメージ。)
3.フジツボの生物学的な特性に関する研究
フジツボは、ユニークな生活史や生理機能を持つ生物であり、その生物学的な特性についても興味深い研究が行われています。
- 幼生期の分散と定着
フジツボは、幼生期に海中を浮遊し、適切な場所に定着して成体になります。幼生がどのように分散し、どのような環境要因が定着を促すのかは、フジツボの個体数変動や分布域拡大を理解する上で重要な課題です。
近年では、海洋の流れや幼生の行動、環境音などが定着に与える影響について研究が進められています。 (フジツボの幼生がプランクトンとして海流に乗って移動するイメージ。) - 脱皮のメカニズム
フジツボは、成長するにつれて殻を脱ぎ捨てる脱皮を行います。フジツボの脱皮メカニズムは、他の甲殻類とは異なるユニークな特徴を持つことが示唆されています。脱皮に関わる生理学的プロセスや、脱皮を制御するホルモンなどについて研究が進められています。 (フジツボが脱皮殻から抜け出した直後の写真、または脱皮の過程を示すイラスト。)
フジツボに関する研究は、多岐にわたり、現在も活発に進められています。接着剤の研究は、医療や工業分野への応用が期待されており、生態や環境に関する研究は、海洋生態系の保全や環境問題への対策を考える上で重要です。また、生物学的な特性に関する研究は、生命現象の理解を深める上で貢献しています。
フジツボを観察しよう!
フジツボは身近な海岸で簡単に見つけることができ、その生態を観察するのはとても興味深い体験になります。
特にクロフジツボは、大きくて干潮の時は目立つ位置にあるので観察しやすいのでお勧めです。
観察のポイントについて、詳しくご説明します。
1.観察場所を選びましょう
フジツボは、潮間帯と呼ばれる潮が満ち引きする場所に生息しています。
- 岩場
海岸の岩の表面は、フジツボが最も多く生息する場所の一つです。
特に潮が引いた後の岩肌をよく探してみましょう。 - 堤防や岸壁
海水に面したコンクリート構造物にも、フジツボが付着していることが多いです。 - 桟橋やブイ
海に浮かぶ人工物もフジツボの生息地となります。 - 船底
係留されている船の底にもフジツボが付着していることがあります(ただし、許可なく立ち入るのは避けましょう)。
2.観察の準備をしましょう
観察をより楽しく、そして安全に行うために、以下のものを準備しておくと良いでしょう。
- 軍手や手袋
岩場やフジツボの殻はざらざらしているので、手を保護するために着用しましょう。 - 観察用具
- ルーペや虫眼鏡
フジツボの細かい構造を観察するのに役立ちます。10倍程度のものがおすすめです。 - カメラやスマートフォン
観察したフジツボの写真を記録するのに便利です。動画を撮影するのも面白いでしょう。 - 筆記用具と Field Notebook (観察ノート)
気づいたことやスケッチを記録するために用意しましょう。
- ルーペや虫眼鏡
- 服装
- 動きやすい服装
岩場を歩き回るので、動きやすい服装が適しています。 - 滑りにくい靴
岩場は滑りやすいので、グリップの良い靴を履きましょう。 - 帽子
日差しが強い日には帽子をかぶりましょう。 - 雨具
天候が変わりやすい場所では、雨具があると安心です。
- 動きやすい服装
- 潮汐表
潮の満ち引きの時間を確認しておくと、観察しやすい時間帯を把握できます。
インターネットやスマートフォンのアプリで簡単に調べられます。
3.観察を始めましょう
準備が整ったら、実際にフジツボを観察してみましょう。
- 干潮時がおすすめ
潮が引いている時間帯は、フジツボが水面から顔を出しているので観察しやすくなります。 - 様々なフジツボを探す
同じ場所でも、大きさや形、色などが異なる様々なフジツボを見つけることができます。じっくり探してみましょう。 - ルーペで細部を観察
ルーペや虫眼鏡を使って、フジツボの殻の模様や形、上から覗くと口が見えます。
口の周りの構造などを観察してみましょう。 - 生息環境を観察する
フジツボがどのような場所に、どのように付着しているのか、周りの生物はどんなものがいるのかなど、フジツボの生息環境にも目を向けてみましょう。 - 写真や動画を撮影する
観察したフジツボの姿を写真や動画で記録しておきましょう。
後から見返したり、他の人と共有したりするのも楽しいです。 - 観察ノートに記録する
観察した日時、場所、天気、フジツボの種類、大きさ、形、色、特徴、行動、生息環境などを記録しておくと、後で振り返る際に役立ちます。スケッチをするのもおすすめです。
4.観察のポイント
- 種類を調べてみよう
フジツボには様々な種類がいます。図鑑やインターネットで調べて、観察したフジツボがどの種類なのか調べてみましょう。種類によって、形や生息場所などが異なります。 - 成長を観察してみよう
同じ場所で継続的に観察を続けると、フジツボの成長を観察できるかもしれません。写真などを記録しておくと、成長の様子が分かりやすくなります。 - 他の生物との関係を観察してみよう
フジツボは、他の生物と共生したり、捕食されたりするなど、様々な関わりを持っています。フジツボと他の生物との関係にも注目してみましょう。 - 安全に注意する
岩場は滑りやすく、転倒の危険があります。足元に注意して観察しましょう。
また、潮の満ち引きには十分注意し、潮が満ちてくる前に安全な場所に移動しましょう。 - 環境に配慮する
フジツボや周囲の生物、環境を大切にしましょう。フジツボを無理に剥がしたり、傷つけたりしないようにしましょう。ゴミは持ち帰りましょう。
5.さらに深く観察するために
- 専門書や図鑑
フジツボについてもっと詳しく知りたくなったら、専門書や図鑑を読んでみましょう。 - インターネット
インターネット上にも、フジツボに関する様々な情報があります。動画サイトでフジツボの生態に関する動画を見るのも面白いでしょう。 - 水族館や博物館
水族館や博物館では、生きたフジツボや標本を見ることができます。
専門家による解説を聞けるイベントなどもあるかもしれません。 - 研究機関や専門家
大学や研究機関などでフジツボの研究をしている人に話を聞いてみるのも、より深く理解するための良い機会になるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
長い間、貝と間違われたこともあるフジツボですが、幼い時には動く姿をしていることに驚いた方も多いのではないでしょうか?
フジツボ観察は、身近な自然に触れ、生物の多様性や生態系について学ぶ良い機会です。
ぜひ、実際に海岸に行って、フジツボの世界を観察してみてください。
そして、安全に注意して、楽しい観察体験をしてください!

参考文献
磯の生き物図鑑 トンボ出版
日本動物大百科
フジツボのキプリス幼生と幼生セメントの生物学