ここではときどきニュースにも出てくる「GDP」を見ていきましょう。
GDPと聞いてうんざりされる方もいらっしゃるかもしれません。
GDPとは、横文字の省略でぱっと意味が分かる単語ではありませんし、よく知らなくても日常生活で困ることもないかもしれません。
けれど、GDP は各国で参考にされる重要な指標の一つで、この指標を参考に国の政策の方針が決まります。
国の政策は私たちの暮らしに大きな影響を与えますし、その方向によっては自分で身を守る必要が出てきます。
ここではニュースで「GDP」の話題が出たらまず、何に気を付けたら良いのか見ていきましょう。ニュースでは表面的なことしか伝えられません。その裏に隠された意味を知って自分の身を守りましょう。
GDPとは
GDPとは、英語でGross Domestic Product (全体の、国内、商品)を省略した言葉で「国内総生産」ということは皆さんもよくご存しかと思います。
GDPとは、ある国の一定期間の経済活動の「規模」を表す指標です。
国内で生産された最終財貨・サービスの市場価値の合計で算出され、その国の経済規模や富の程度を示す重要な指標として用いられています。
GDPは、こんなところで使われます。
- 経済成長の指標として
GDPは、経済活動の規模を表す指標なので、経済成長の指標として使えます。
GDPが成長すれば、その国ではより多くの財貨・サービスが生産・消費され、人々の生活水準が向上していると考えられます。 - 政策立案の指標として
GDPは、経済政策の立案・実施の指標としても用いられます。
例えば、政府は経済成長を促進するために「税制」や「金融政策」などの政策を実施しますが、その際には、GDPの動向を参考にします。 - 国際比較の指標として
GDPは、各国の経済規模を比較する指標として使えます。
例えば、国際通貨基金(IMF)は、世界各国のGDPを発表していて、各国の経済力を比較しています。
ニュースで惑わされないために
ニュースでGDPの話題になるとプラスだから良かった、マイナスだと悪かった、という話になります。
けれど、もう少し詳しく見ていくとそのような単純な話ではないのが分かります。
ニュースでGDPの話題が出たら、まず気を付けたいことを3つにまとめました。
- GDPには限界があること
GDPは、ある国の一定期間の経済活動の規模を表す指標ですが、その数字だけで判断するには限界があります。- 経済の質や持続可能性を必ずしも反映しない
- 経済の多様性を必ずしも反映しない
- 環境への負荷を必ずしも反映しない
- 比較対象を明確にする
GDPは、単体で見るとあまり意味がありません。
GDPを比較する際には、必ず比較対象を明確にする必要があります。
例えば、ある国のGDPが前年比で10%増加したとします。
この場合、前年比で10%増加した他の国と比較すれば、その国の経済成長は比較的良好と言えるでしょう。
逆に、前年比で15%増加した他の国と比較すれば、その国の経済成長は比較的低いと言えます。
ニュースではある部分だけを切り抜いて報道するため、必要な情報が十分にないことがよくあります。
一つの指標から判断するのではなく、いろいろな方向から見ることが大切です。 - 意図を読み取る
GDPの話題が出たときには、その話題を出す人の意図を読み取ることも重要です。
例えば、政府がGDPの増加を強調する場合には、経済成長をアピールして国民の支持を得ようとしている可能性があります。
また、企業がGDPの増加を強調する場合には、投資家へのアピールや、自社の業績をより良く見せようとしている可能性があります。
このように、GDPの話題が出たときには、GDPの限界を理解して、比較対象を明確にすること、そして、情報発信者の意図を読み取ることが大切です。
もう少し詳しく見ていきましょう。
1 GDPの限界
ニュースなどで「GDPが伸びた」という話題は、とても良いことのように報道されます。
けれど、それを鵜呑みにして良いのでしょうか?
実は、GDPが伸びることが必ずしも良いとは言えません。
GDPは、ある国の一定期間の経済活動の規模を表す指標です。
GDPが伸びると経済活動が活発化し雇用が増え、賃金が上昇し、人々の生活が豊かになるなどのメリットが期待されます。
しかし逆に、GDPが伸びることで、環境への負荷が増加したり、所得格差が拡大したりするなどのデメリットも発生する可能性があります。
- GDPが伸びるメリット
- 雇用が増え、賃金が上昇する
- 新しい商品やサービスが開発され、人々の生活に新しい選択肢が生まれる
- インフラが整備され、人々の生活が便利になる
- GDPが伸びるデメリット
- 環境への負荷が増加する
- 所得格差が拡大する
- 経済の持続可能性が損なわれる
このようにGDPが伸びた方が良いかどうかは、メリットとデメリットを総合的に判断しなければいけません。
そのどちらを優先するかどうかは、その国の置かれている状況で判断します。
例えば、経済成長が他の国に比べて遅れている国は、GDPが伸びるメリットを重視して、伸びを促進する政策を実施すると効果が高いです。
例えば、以下のような政策が有効です
- 投資を促進する政策
- 消費を促進する政策
- 貿易を促進する政策
反対に、格差が開きすぎていると感じられたり、環境汚染が広がっている国は、GDPの伸びを抑制する政策が有効です。
- 環境保護を重視する政策
- 所得格差の是正に取り組む政策
- 経済の持続可能性を重視する政策
このように「GDPが伸びたから良い」のように考えずメリットとデメリットがあることを知っておきましょう。
2 GDPを比較する
次に、いくつかの国のGDPを比較するとは、その比較対象の事情に注意します。
- 比較対象の経済規模
GDPは、ある国の一定期間の経済活動の規模を表す指標であり、経済規模が大きいほどGDPの値も大きくなります。そのため、比較対象の経済規模が異なる場合、GDPの比較には注意が必要です。
例えば、日本とアメリカのGDPを比較する場合、日本のGDPはアメリカのGDPの約1/3程度しかありません。そのため、単純にGDPの値を比較すると、日本がアメリカよりも経済規模が小さいように見えてしまいます。
このような場合、GDPを比較する際には、1人当たりGDPやGDP成長率など、他の指標を併せて考慮することも重要です。 - 比較対象の経済構造
GDPは、産業別GDPやサービス別GDPなどの指標に分解することができます。産業別GDPやサービス別GDPは、その国の経済構造を反映する指標となります。
そのため、比較対象の経済構造が異なる場合、GDPの比較には注意が必要です。
例えば、日本とアメリカの産業別GDPを比較する場合、日本の産業別GDPは、製造業や建設業の割合が大きく、アメリカの産業別GDPは、サービス業の割合が大きくなっています。
このような場合、GDPを比較する際には、産業別GDPの構成比などを考慮することも重要です。 - 比較対象の経済制度
GDPは、その国の経済制度によっても影響を受けます。例えば、社会主義国や共産国では、政府の経済への関与が大きいため、GDPの値が大きくなっています。
そのため、比較対象の経済制度が異なる場合、GDPの比較には注意が必要です。
例えば、日本と中国のGDPを比較する場合、日本のGDPは中国のGDPの約1/2程度しかありません。しかし、中国は社会主義国であり、政府の経済への関与が大きいため、GDPの値が大きくなっています。
このような場合、GDPを比較する際には、経済制度の違いを理解した上で、GDPの値を比較することも重要です。
このように、GDPを使って比較するときには、経済規模、経済の構造、制度などの違いを理解した上で、GDPの値を比較することが重要です。
3 GDPのニュースを出した意図を読み取る
GDPがニュースになったときに気を付けたいことの3番目は報道側の事情です。
- 報道する側の立場や目的を理解する
報道する側は、政府、企業、民間団体など、さまざまな立場があります。
そのため、報道する側の立場や目的によって、GDPの情報を出す意図が異なる可能性があります。
例えば、政府がGDPの情報を出す場合は、経済状況を国民に伝え、政策の成果をアピールすることを意図している可能性があります。また、企業がGDPの情報を出す場合は、自社の業績をアピールすることを意図している可能性があります。 - 報道する内容を客観的に評価する
報道する内容は、必ずしも客観的なものとは限りません。
そのため、報道する内容を客観的に評価することが重要です。
例えば、GDPの成長率がプラスになった場合、報道は「経済が成長している」と伝える傾向があります。
しかし、GDPの成長率がプラスになった理由には、さまざまな要因が考えられます。
そのため、GDPの成長率を単純に「経済が成長している」と評価するのではなく、その理由を分析することが重要です。 - 報道する時期やタイミングを意識する
報道する時期やタイミングによって、報道の意図が異なる可能性があります。
例えば、選挙の時期にGDPの情報を出す場合は、政権の経済政策をアピールすることを意図している可能性があります。また、景気後退の時期にGDPの情報を出す場合は、景気対策の必要性を訴えることを意図している可能性があります。
このように、GDPの情報を出す報道の意図を読み取るためには、報道する側の立場や目的、その内容、時期やタイミングなどを意識することが重要です。
具体的には、以下の点に注意するとよいでしょう。
- 報道する側は、政府、企業、民間団体など、どのような立場にあるか
- 報道する側は、どのような目的でGDPの情報を出すのか
- 報道する内容は、どのような内容なのか
- 報道する時期やタイミングは、どのような時期なのか
これらの点を意識することで、GDPの情報を出す報道の意図をより正確に読み取ることができるでしょう。
まとめ
今回はニュースでGDPと聞いたら、まず気を付けたいことをまとめました。
GDPという指標は、あくまでもその国の経済活動の規模を表す一つの指標です。
国全体で行われる活動をすべて一つにまとめた指標なので目安としては分かりやすいものの、国の経済規模だけ分かったとしても、その内容には触れていないので、経済の質や持続可能性を必ずしも反映するものではありません。
GDPは大きな指標なので多くの人が参考にしますが、他の国と比べる場合にはその経済規模に注意しなければいけません。単純に比較してもその国の人口や主要産業によって大きく差が開く場合があります。また市場経済を取る国と計画経済を取る国とではGDPに差が出ることも知られています。GDPは各国の状況に合わせて比較しましょう。
また、報道には報道側の持つ裏の事情があります。
見ている側を、報道者側に有利になるように誘導する目的がないかどうか、ニュースを注意深く聞いて判断しましょう。
そしてGDPが伸びても、必ずしも人々の生活が豊かになるとは限りません。
GDPの成長率を評価する際には、GDPの質や持続可能性も考慮することが重要です。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
国内総生産 - Wikipedia